ナルコレプシーについて ~症状編~

こんにちは。ライフワークの動画班に所属しているMです。
前回はナルコレプシーとは何か、原因は何?などを簡単に書いていきました。
今日は実際に起こりうること、どんな症状なの?という事で少し詳しく体験談を含めて書いてみました。
それではナルコレプシーにはどんな症状が出るのか見ていきましょう。

ナルコレプシーには主に5つの症状があります。その中でも、最も主要な症状が睡眠発作です。
次に眠るとすぐにREM睡眠に入るため、REM睡眠に関連する症状が3つあります。(REM睡眠については後ほど簡単に説明します)
その他にも、細かな症状と言いますか、いやでも変わってしまう事があります。最後に見ていきましょう

– 【主症状】日中の強い眠気と急な居眠り(睡眠発作)

– 【REM睡眠関連症状】情動脱力発作(カタプレキシー)
– 【REM睡眠関連症状】睡眠麻痺(金縛り)
– 【REM睡眠関連症状】入眠時幻覚

– 【その他】自動症
– 【その他】熟眠障害

1.「睡眠発作」―時間や場所など関係なく襲ってくる強烈な眠気―
 1型、2型どちらにも表れる主要な症状が「睡眠発作」です。
 もう、とにかく異常な眠気としか言いようがありません。ナルコレプシーの睡眠発作は、通常一度眠ると数分から30分程度継続することが多いとされていますが、これにも個人差があり、私に初めてこの症状が起こった時は、5分〜10分ごとに眠りに落ちてはハッと起きるという状態を延々と繰り返しました。
 さらに、対策をしていない場合、場所や時間、何をしていても強烈な眠気に襲われます。

 医学的には「耐え難い眠気(不可抗力的な眠気)」と称され、ナルコレプシー患者はこの眠気を自力で抑えることが困難とされています。また、この眠気の強さは『丸二日間徹夜した後の眠気』に例えられることが多いです。こちらの方が人によってはイメージしやすいかもしれません。

 また、電車などの一定間隔で揺れがやってくる場所や、一定のリズムで行う動作、いわゆる単調な動作は、健康な人でも心地よくなって眠たくなることがあります。このような環境では、より眠気が起こりやすくなります。車やバスに乗って椅子に座り、数秒したかと思ったら終点だったりします

 後で説明する症状にも関わるのですが、場合によっては、自分が眠ってしまったことに気づかないこともあります。

(閑話になりますが、健康な人でも、昼食後に少し眠くなる時間があると思います。これは食後の血糖値の上昇によってオレキシンの分泌量が低下する(=脳の覚醒を維持する物質が減る)ため、正常な人でも眠くなることがあるのです。閑話休題)

2.「情動脱力発作」―強い喜怒哀楽の感情によって力が抜けてしまう―

 1型ナルコレプシーに特徴的な症状として、「情動脱力発作」と呼ばれるものがあります。
 この症状は、一般的に喜怒哀楽の感情、特に「うれしい!」「たのしい!」などのプラスの感情によって引き起こされることが多いと言われています。しかし、個人差が大きい症状でもあります。私の場合、怒りや恐れなどの感情によって引き起こされることが多いです。

 具体的には、次のような症状が現れます。 瞬間的に体から力が抜けてしまう、一瞬体が沈み込むように感じる、膝に力が入らず、歩いた瞬間にカクッと折れる、症状が酷いと全身に力が入らなくなり地面に倒れこんでしまうなどです。また、発作の強さや頻度には、大きな個人差があります。

 なお、この症状の有無により、1型(発作が起きる)と2型(発作は起きない)のナルコレプシーに分類されます。

 私の場合、発作は怒りや恐れなどの感情で起こることが多く、首から肩の後ろのあたりにビリビリと痺れるような前兆を感じた後、まず手足に力が入らなくなります。手に何か持っていた場合は地面に落としてしまい、膝が折れ、最終的に地面に倒れこみます。ただ、壁に寄りかかったり、椅子や地面に座り込むことができれば、全身が崩れ落ちるのを防ぐことができます。

 例えば、私の場合ですが、次のような状況で発作が起こります。
 ・横断歩道を渡っている最中に信号が点滅し始める(焦り)
 ・冬場、雪道や圧雪で足元が滑りそうになる(転倒の恐怖)
 ・歩きタバコをしている人の煙が臭いと感じたとき(怒りや嫌悪)

 発症から約7年経ちますが、未だにこの症状は続いています。この病気には根治療法(原因から治すための治療法)がないため、できる限り薬でしっかりと抑え込みたい症状です。

3.「入眠時幻覚」-寝入りばなに見る鮮明な悪夢-

 こちらはナルコレプシーになると頻繁に起きる症状の一つです。
 70〜80%のナルコレプシー患者に見られる症状であり、寝入りばなや、明け方の眠りが浅くなった頃に、普段の夢とは違う非常にくっきりと鮮明で色彩豊かな夢を見ることがあります。私の場合はですが、日中の睡眠発作の時に見る夢は直前までやっていた事と同じ夢が多く、実際起こされるまでどちらが夢でどちらが現実かわからなくなることもあります。
 また、夜の睡眠についてはグロテスクな夢や、昔あった嫌な事を思い出す夢が多いです。
 また、この夢には幻触』(誰かに触られたり圧迫されるような感覚)、『幻覚』(まるで今そこに何かがいるように感じる生々しい現実感)、『幻聴』(本来聞こえるはずのない声が聞こえる)という3つの症状が同時に現れます特に幻覚と幻聴はかなりはっきり感じ、返答したと思ったら目が覚め夢だったという事もよくあります。

 発症から約7年経ちますが、いまだにこの症状が続いています。治療が上手くいかなければ一生付き合っていくことになるでしょう。

4.「睡眠麻痺」-恐怖を感じるいわゆる金縛り-

 『睡眠麻痺』いわゆる金縛りと呼ばれる現象です。これは発症初期によく起こるとされています。この現象は「入眠時幻覚」と同様に寝入りばなに起こり、しばしば「入眠時幻覚」を伴うこともあります
 頻度も個人差があり、私の場合は、一度だけ睡眠麻痺を経験しました。その時は何故か分かりませんが非常に強い恐怖を感じました。しかし体は動かせず、恐ろしくても逃げ出せず、声を出して助けを呼ぶ事ももちろんできませんでした。これはREM睡眠中に意識が覚醒してしまい、大脳は覚醒しているが、体の筋肉が弛緩したままの状態になるため意識は在れど体は動かせないというからくりです。(REM睡眠の詳細は次の文章にて説明します)

 

 4つの症状を説明してきましたが、この2〜4の症状は覚醒状態からすぐにREM睡眠(※1、※2)に脳波が変化するナルコレプシー特有の睡眠リズムによって起こります。ゆえに『情動脱力発作』『入眠時幻覚』『睡眠麻痺この3つの症状のことをREM睡眠関連症状と呼びます。難しいことは置いておいてこの3つの症状は原因が同じという事を覚えておきましょう。
 程度の差はありますがREM睡眠を抑える薬さえ使えばこの3つの症状を一度に抑え込める場合もあります。(薬の効果はもちろん個人差がありますので、REM睡眠の抑制が強すぎると逆に睡眠の質が悪化することもあるため、医師とよく相談して調整することが大事です)

※1(Rapid Eye Movement(高速眼球運動)の頭文字をとりREM睡眠と言います。この睡眠段階の時に瞼を開いてみると目がぐるぐると高速で動いているのが見れます)
※2(大脳は起きているが体は眠っている状態、正常ですと睡眠に入ってから大体1.5時間後に、おもにこの睡眠の段階になります)

5.自動症ー事前に行っていた動作を眠った後も取り続ける無意識の行動ー

 眠いなーというときに何をしていたのか覚えていないことがあります。例えば私の場合、歩いている途中に眠気に襲われる事が多く、記憶がプツっと途切れたと思ったら数歩先へ歩いて進んでいたりします。この症状が起こる場合恐ろしい目にあうことも有るのです。

 例えばですが、私は何度か赤信号の横断歩道の方向へ歩道を歩いていたら、気が付けば、横断歩道の中央くらいまで歩いていたことがあります。
 それと人の往来の多い道は人にぶつかりそうになる事も多く危ないです。

 他に自動症による身の危険にあう経験は私には在りませんでしたが、気が付いたら作業中のドキュメントに同じ文字を打ち続けていたという事はよくあります。

6.夜間熟眠障害ー寝つきは早いがすぐに目覚めるー 

 ナルコレプシーになると夜間の睡眠にも異常が現れます。
 上記の通り寝つきは良く直ぐに眠りにつくことはできますが、目が覚めるのも早くなります。
これは眠りの浅い睡眠(REM睡眠)と深い睡眠(ノンREM睡眠)が頻繁にまた不規則に切り替わるためです。
 オレキシンは、REM睡眠とノンREM睡眠のバランスを調整する役割を持っており、オレキシンがなくなることで睡眠と覚醒の切り替えがスムーズにできなくなり、この症状が引き起こされます。
ナルコレプシーでは眠りにつくとすぐにREM睡眠に入るため、通常の睡眠と異なり、睡眠が安定しにくいという特徴があります。
 また眠りの浅くなるタイミングも増えるので、夜中に目が覚める頻度が多くなります(中途覚醒といいます)。この事があるため、合計睡眠時間がいくら長くても熟睡感はほとんど無く日中の眠気が強くなり睡眠発作が増える悪循環となってしまいます。


 これは私がナルコレプシーを発症してすぐの事です。どれだけ頑張ってもすぐに起きてしまう頃があり、だいたい5~10分程度で起きていました。睡眠薬を飲んで何とか眠れたり眠れなかったりといった具合です。入院中だったので様々な薬を試していたのですが、その日出された睡眠薬はベルソムラというお薬でした。これはナルコレプシーの研究より見つけられた結果を活用して作られた睡眠薬で、オレキシンが細胞にくっついて作用するところに先にくっつき、覚醒状態を抑える(眠るようにする)薬です。この病気さえ持っていなければとても有用で、効果の高い良い薬なのですが、ナルコレプシーを持っていると症状が悪化することもあるのです。この頃はナルコレプシーだとはつゆほども思っていなかったためもちろん使い、後日症状が悪化し酷い目にあいました。

番外編

 1型ナルコレプシーの人はオレキシン(覚醒とその維持のホルモン)の分泌量が非常に少なくなっているか、ほとんど無いかのどちらかです。

 第1回のブログにて、1型ナルコレプシーで分泌されなくなるオレキシンについて触れましたが、この物質は下記の通り幅広い効果をもたらすペプチドホルモン(アミノ酸がいくつか~数十個連なった短いホルモン)です。
 ナルコレプシーになったから全ての症状が出てくるわけではないのですが、他にもこんなことになるんだという程度に見てもらえれば幸いです。

覚醒とその維持
 主に今まで書いていたことがオレキシンがなくなったときに起こります。

食欲の調整(かなり個人差、環境差が顕著)
 空腹を感じにくくなり、食への興味や意欲が減る。逆に満腹と空腹の境目が曖昧になり、食べ過ぎたり、逆に食べれなくなったりします。食欲低下の方に振り切れると体重減少として出てきますし、逆の場合はもちろん体重増加となります。食への喜びが無くなり食事が義務に似た行動になってしまう場合もあります。

脳の報酬系の調整(快感や満足感を感じる脳の部位)
 オレキシンは特にドーパミンという快感を得る物質を出す部分に密接に結びついています。
 普通であれば甘いものを取るとこのドーパミンが即座に出て快感をもたらしますが、オレキシンが減少、または無くなると甘いものが過剰に欲しくなる場合があります。

ストレスの減少
 同じくオレキシンが無くなるとストレス耐性(ストレスに耐える強さ)が低下します。そうするとストレスをどうにかするためコルチゾールという物質が直ぐに脳内に出るようになります。この物質の分泌によって、甘いものへの欲求が高まることがあります。
ナルコレプシー患者やオレキシン欠乏状態の人はストレスにより過食(爆食い)するようになったり甘いものへ依存するようになるケースがあるといわれています。

やる気を出す
 日常生活での活動意欲が無くなり、うつ症状に似た状態が現れることもある。動きたくないという時はだれにでも起こると思いますがそれの更に酷い感じです。そして動かなくなりエネルギー消費が減り体重の増加につながる一助になります

エネルギー代謝・自律神経の調整
 エネルギーの消費が低下する。これと睡眠障害によって食べ過ぎが多くなり体重増加するナルコレプシー患者さんが多いのです。また体温調節がうまくいかなくなる場合もあります。(恐らくそうだと思うのですが平熱が37℃ほどあります)

オレキシン不足により代謝が減り、その一方でストレスや睡眠障害
(この二つにより甘いものが食べたくなり、カロリーはさらに増加傾向へ)により食べ過ぎることが多くなり、さらに動きたくないなども増え体重が増加するようになります。特にナルコレプシー患者さんに多く見られます。

 何が言いたいのかというと、この病気は眠いだけでは収まらなく、他の病気にもなりやすくなる病気という事です。非常に太りやすいし糖尿病などの生活習慣病にもなりやすいです。他の病気も意識しておかないと後々大変な目にあいますとそういう事です。
 ちなみに私はナルコレプシーになって基礎代謝が500kcal程減りました。

※食べることに関してはオレキシン一つで調整しているわけではないため必ず起こる事ではないのですが、エネルギー代謝や行動意欲の低下を通じて間接的に食行動に影響を与えるとされています。


 体重増加や居眠りなど症状が合わさりだらしないと人に見られがちです。本人にはその気がなくとも周りの目は勝手に決めつけてきます。好きで寝てるわけでも何でもないですが誤解の種はどんどん増えるばかりです。なので身の回りの人だけでも理解してあげてください。

 次回はどんな治療があるのか、特に病気に向き合ってどのような生活習慣に変えていくとよいのか考えてみようと思います。