こんにちは!札幌の就労継続支援ライフワークブログ担当、Katyです。
前編はお読みいただけましたでしょうか?
前編では、自分だけのトリセツである「WRAP(元気回復行動プラン)」の基本概念と、日頃のコンディションを保つ「青信号プラン」、そしてイライラや体調不良の初期症状に対処する「黄信号プラン」についてお伝えしました。
前編をまだ読んでいない方は、ぜひこちらから先にお読みくださいね。

後編となる今回は、「調子が最悪な赤信号のとき(非常事態)の具体的な乗り越え方」からスタートします。
さらに、このWRAPが「なぜあなたの就職やステップアップにおいて最強の武器になるのか」、そして挫折せずに使い続けるための極意についてたっぷり解説します。
それでは、後編スタートです!
④ 赤信号プラン:調子が最悪なときの戦略(クライシス・脱クライシスプラン)

どれほど精緻なWRAPを作り、どれほど気をつけて生活していても、季節の変わり目や、大きなライフイベント、予期せぬトラブルによって、信号が完全に「赤」に変わってしまうことはあります。
赤信号とは、うつ状態が非常に深くなったり、パニック発作が頻発したりして、「自分一人では自分をコントロールできなくなった状態(クライシス)」のことです。
赤信号のとき、私たちが掲げるべき唯一絶対の目標は、「これ以上、状態を悪化させないこと。生き延びること」。それだけです。進歩しようとか、作業を覚えようなどと考えてはいけません。
赤信号における具体的な行動指針は以下の通りです。
- ライフワーク(作業所)への通所を思い切ってお休みし、連絡を入れる
- 「生産的なこと」をすべて放棄し、最低限の生命維持(何か口に入れる、横になって目を閉じる)だけを行う
- 「休むことは怠けではない。次のステップへ進むための、立派で積極的なリカバリー(回復)のプロセスなんだ」と、ノートの文字を見つめて自分に言い聞かせる
- セルフケアの限界を超えているため、速やかに主治医の先生や精神科のクリニックに相談し、指示を仰ぐ
元気なうちに書いておく「お願いのお手紙(クライシスプラン)」

赤信号の最大の特徴は、「その状態に陥っているとき、本人はまともな思考や会話ができない」という点にあります。自分が混乱しているときに、「どうしてほしい?」と聞かれても、「分からない!放っておいて!」と叫ぶことしかできません。
そこで、WRAPの真骨頂である「クライシスプラン(お願いのお手紙)」が力を発揮します。これは、まだ自分が青信号で元気なときに、未来の調子を崩してしまった自分のために書いておく、周囲への公式な委任状です。
このお手紙には、主に以下の3つの重要事項を明記しておきます。
- 誰に助けてほしいか?(私のサポートチーム)
- 「私がパニックになったら、家族の〇〇、主治医の〇〇先生、そしてライフワークの担当スタッフの〇〇さんに連絡をして、連携を取ってください」
- 何をしてほしいか?(具体的な支援の要請)
- 「薬の飲み忘れがないか声をかけてほしい」「ただ隣に静かに座っていてほしい」「病院への受診に付き添ってほしい」
- 何をしてほしくないか?(二次被害を防ぐためのNG事項)
- 「『頑張れ』励ましたり、お説教をしたりしないでほしい」「部屋の電気を明るくしないで、暗くしておいてほしい」「無理に理由を聞き出そうと話しかけないで、そっとしておいてほしい」
このクライシスプランの紙が一枚あるだけで、ライフワークのスタッフや周囲の人は、「今、彼女は赤信号だから、この手紙の通りに動こう」と、迷わずあなたを保護することができます。あなたは安心して混乱し、安心して休むことができるのです。
そして、嵐が過ぎ去り、少しずつ空気が澄んできたら、焦らずに「脱クライシスプラン」のステップに沿って、少しずつ少しずつ、元の青信号の日常へと歩みを進めていけば良いのです。
なぜWRAPが「一般就労・就職」を叶える最強の武器になるのか?

就労継続支援B型であるライフワークに通うみなさんの多くは、その先にある「A型への移行」や、さらにその先にある「企業への一般就労」という目標を胸に抱いていることでしょう。
実務スキル(動画編集のテクニック、調理の技術、ブログライティングの文章力など)を磨くことはもちろん素晴らしいですし、就職のアピールポイントになります。しかし、実際に障害者雇用などで企業が採用活動を行う際、面接官や人事担当者が「最も重要視しているポイント」はどこだと思いますか?
それは、実務スキルの高さではありません。「自分の障害特性や調子の波を自分自身で理解し、適切に対処・コントロールできるか(自己管理能力)」、そして「体調を崩す前に、周囲に適切な配慮を具体的な言葉で求められるか(ヘルプサインの能力)」です。
企業側の本音を言えば、仕事中に突然連絡なしで休まれたり、オフィスで突然倒れられたりすることが一番の困りごとです。逆に、以下のような説明ができる人材であれば、企業は安心して採用を決めることができます。
「私は疲れが溜まると、黄信号として『胃の痛み』や『対人不安』というサインが出ます。そのサインが出た際は、事前に上司にその旨を報告し、10分間の休憩をいただくか、その日の残業を免除していただくというプランを決めています。この自己管理を行うことで、過去1年間、突発的な欠勤をすることなく安定して通所を続けることができました」
どうでしょうか? この説明ができるようになるためのトレーニングシートこそが、まさにWRAPそのものなのです。
ライフワークでの日々の作業(目が疲れたからドリンクバーで休む、元気が出ないから林さんのランチを食べてエネルギーを入れる、など)は、すべてが「未来の会社で長く働き続けるための、セルフ管理の模擬練習」です。WRAPを作ることは、あなたの就職活動の履歴書や職務経歴書に、最も強力な「自己管理能力の証明書」を添付することと同じ価値があるのです。
第6章:挫折しないための3つの鉄則 〜完璧なトリセツなんて存在しない〜

ここまで読んで、「よし、私も完璧なWRAPを作って、完璧な毎日を送るぞ!」と意気込んでくれたなら、とても嬉しいです。しかし、最後に最も重要な「力を抜くための鉄則」をお伝えしなければなりません。
真面目な人ほど、WRAPを完璧に埋めようとして疲れてしまい、途中で挫折してしまうからです。WRAPを長続きさせるための、マニュアル推奨の3つの安心ルールを心に刻んでください。
鉄則1:いつでも何回でも書き直してOK!
あなたの心も体も、年齢や季節、環境によって常に変化し、進化しています。今日書いたプランが、来月には合わなくなっていることなんて日常茶飯事です。「一度書いたら守らなければいけないルール」ではなく、ただの「今の仮のメモ」だと思ってください。鉛筆で書いて、消しゴムで何度でも書き直せば良いのです。
鉄則2:全部埋めなくてOK!
「私の引き金って何だろう?」「赤信号のとき、どうしてほしいか思い浮かばない……」
それで大正解です。分からないところは、斜線を引くか空欄のままにして、今書ける「好きな音楽を聴く」という道具ひとつだけを書いて終わりにして構いません。空欄の多さは、これからの伸びしろの多さです。
鉄則3:誰かと一緒に作ってOK!
一人で孤独に自分の内面と向き合っていると、どうしても思考がネガティブな方向へぐるぐると回ってしまいがちです。
そんなときは、ライフワークの仲間や、いつも話を聴いてくれるスタッフさんに声をかけてみてください。
「私のいい感じのときって、どんな風に見える?」
「〇〇さんが調子悪いとき、どんな道具使ってる?」
そんな風に、おしゃべりや雑談をしながら、みんなの知恵を借りて楽しくパズルを埋めていくこと自体が、あなたの心を温める最高の「ウェルネス・ツール(道具)」になるのです。
終章:さあ、人生の「運転席」へ座ろう

私たちは、障害や病気という予期せぬ助手席の同乗者によって、人生のルートを急に変更させられたり、スピードを落とさせられたりしてきたかもしれません。
しかし、このWRAPという地図とトリセツを手に入れた今、あなたの人生の「運転席(ドライバーズシート)」に座っているのは、間違いなくあなた自身です。
どこでアクセルを踏み、どこでブレーキをかけ、どのサービスエリアで美味しいランチを食べて休憩するのか。それを決める権利は、すべてあなたにあります。
ライフワークという安心できる場所で、仲間やスタッフという頼もしいバックアップチームに見守られながら、あなただけの「元気のカギ」をひとつずつ見つけていきましょう。
まずは今日、ノートを開いて、「私がホッとする道具」を、たったひとつ書き出すところから、あなたの新しいドライブを始めてみませんか?
